相続は、人が亡くなることで発生します。そのため、何も手続きをしなかったとしても、人が亡くなった瞬間から相続は開始していることになります。しかし、相続手続きを行わないままだと、不動産を売却したり、銀行等金融機関に預けてあるお金を自由に引き出したりといったことができません。そのため、相続手続きは必ず行わなければなりません。
とはいえ、相続手続きと聞くとなんだか難しそうな気がしてしまう方も多いのではないでしょうか?実際に何から手を付けていいのかわからないという方も少なくありません。相続手続きは必要書類を集めないと進めることができません。
そこで今回は、相続手続きがが少しでもスムーズに進められるように、各手続きに必要な書類について詳しく解説します。
どの相続手続きでも共通して必要な書類
相続手続きには、共通して必要になる書類がいくつかあります。以下の書類についてはほぼ必ず必要になります。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票(もしくは除票)
- 相続関係がわかるだけの戸籍謄本
- 遺言書、もしくは遺産分割協議書
- 相続人全員の印鑑証明書
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本が必要になります。
戸籍謄本にはいくつか種類がありますが、取得方法はすべて同じです。被相続人が本籍地を置いている地区町村役場から窓口、もしくは郵送にて取り寄せることができます。
必要な手数料は全国統一で戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)は450円、戸籍から抜けるなどで誰もいなくなった「除籍謄本(除籍全部事項証明書)」、法改正によって変更された「改正原戸籍」が750円となっています。
もし、被相続人が本籍地を転々としている場合は、すべての市区町村役場から戸籍謄本を取り寄せなければならないため、時間のかかるおそれがあります。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本は、相続関係を確認する意味でも重要な書類となりますので、取得については早々に着手するように心がけてください。
被相続人の住民票(もしくは除票)
相続手続きには、管轄が定められている手続きがいくつもあります。そして、原則は被相続人の最後の住所地が管轄となるため、その確認と証明のために住民票が必要になることがあります。また、相続登記では登記記録に記載されている被相続人の住所と本籍地が異なる場合には、除票などで関連付ける必要があります。
必要な手数料は自治体によって若干異なりますが、300円程度で取得可能です。
相続関係がわかるだけの戸籍謄本
相続関係というのは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本だけでは確認できません。
相続人の方の戸籍謄本も必要になります。相続人の方の戸籍謄本は、被相続人が亡くなった日よりも後に発行された戸籍であることが必要です。
また、相続人である子どもが亡くなっていれば、代襲相続が発生し、さらにその子ども(被相続人の孫)が相続人になります。これらを正確に把握するには、相続人の子どもについても戸籍から順を追って戸籍を取得していかなければ確認できません。被相続人が亡くなった後で亡くなった相続人がいる場合も同様です。戸籍を辿りながら、相続関係がわかるだけのすべての戸籍謄本を取得しなければなりません。
遺言書、もしくは遺産分割協議書
相続人が複数いる場合、相続手続きによっては、誰がどの遺産をどれだけ取得したかなど、相続の内容(持分等)について確認する必要があります。そのためには、遺言書があれば遺言書、なければ遺産分割協議書を作成しなければなりません。
遺産分割協議書は自分で作成することも可能ですが、専門知識が必要なため難しいと感じた方は専門家に依頼しましょう。
なお、遺産分割協議書には、後述する印鑑証明書と同一の印鑑を捺印しなければならない点に注意しましょう。遺産分割協議書と印鑑証明書はセットになります。
相続人全員の印鑑証明書
相続手続きに遺産分割協議書を提出する場合、相続人全員の印鑑証明書を添付しなければなりません。また相続税の申告でも相続人全員の印鑑証明書を提出します。
印鑑証明書は、市区町村役場にて登録・取得ができるので、印鑑登録をまだしていない方も、必ず登録することになります。取得の手数料は、市区町村役場によって異なりますが、200~400円程度です。また、登録についても市区町村役場ごとに運用が異なり、数百円程度の手数料を取られることもあるため、印鑑登録をされていない方は事前に確認しておくと良いでしょう。
法務局の相続登記手続きに必要な書類
相続によって不動産を取得した場合は、法務局で相続登記手続きをしなければなりません。相続登記手続きについては、令和6年4月1日から義務化されるため、まだしていないという方は、この機会に書類を準備し、手続きを終えてしまうことをおすすめします。
法務局の相続登記手続きについては、上記の共通書類に加え、以下の書類が必要になります。
- 固定資産税の納税通知書または固定資産評価証明書
- 相続登記申請書
固定資産税の納税通知書固定資産評価証明書
相続登記手続きには登録免許税といって手数料がかかります。そして、登録免許税を計算するには、不動産の固定資産評価額を基にします。そのため、固定資産評価額がわかる書類として、固定資産税の納税通知書または固定資産評価証明書が必要になります。
固定資産税の納税通知書は毎年送られて来るので、それが手元にあればそれで足ります。しかし、それが手元にない場合には、固定資産評価証明書を市区町村役場、東京都は都税事務所にて取得します。
この固定資産評価証明書は、不動産の価格の目安となるもので、相続登記申請の他にも、相続税の計算するために必要になることもある書類です。
取得にかかる手数料は、自治体によって異なりますが、数百円程度となっています。
相続登記申請書
相続登記手続きの際は、相続登記申請書を作成しなければなりません。申請書のひな形や記載方法については、法務省のホームページにて詳しく解説されていますが、難しいと思われたら司法書士に依頼するのが早いです。
法定相続情報証明制度とは?
相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続関係がわかる戸籍謄本の原本を提出する必要があり、場合によっては戸籍謄本の束を何度も出しなおさなければなりません。
しかし、法務局で取得できる法定相続情報証明制度を利用すれば、登記官が無料で認証文を付した法定相続情報一覧図の写しを交付してくれます。後述する銀行等金融機関などには、この写しで相続手続きを進めていけるので非常におすすめです。
銀行等金融機関の相続手続きに必要な書類
被相続人名義の銀行口座の解約や、名義変更をする場合、各金融機関所定の相続手続きをしなければなりません。銀行口座の解約や名義変更に必要な書類は、銀行等金融機関毎に若干異なるのですが、以下では共通書類の他、必要となる書類について解説します。
- 相続関係説明図
- 各銀行等金融機関から記載を依頼される書類
相続関係説明図
ゆうちょ銀行の相続手続きの際は、共通書類である戸籍謄本の内容をまとめた、「相続関係説明図」の提出を求められます。相続関係説明図とは、誰が亡くなり、誰が相続人であるのかをわかりやすく記載・説明した図のことです。
なお、相続関係説明図については、ゆうちょ銀行から所定の用紙を渡されるので、それを埋めるようにすれば良いでしょう。
各銀行等金融機関から記載を依頼される書類
上記の他に、銀行等金融機関からは記載をお願いされる書類がいくつもあります。
一般的には、「払い戻し請求書」、「振込用紙」、印鑑や通帳を紛失しているのであれば「紛失届」などです。いずれの書類も、書式はすべて各銀行等金融機関で用意されていますので、こちらで何か作成しなければならないわけではありません。
相続税申告に必要な書類
相続税申告をしなければならない場合は、上記の共通書類の他、以下の書類が必要です。
なお、相続税申告は、自身に相続があったことを知った日から10か月以内に行わなければなりません。他の相続手続きと違って期限があるため、優先して進めていきましょう。
- 相続税申告書
- 不動産関係書類
- 預貯金関係書類
- その他の財産関係書類
相続税申告書
相続税の申告の際には、相続税申告書を作成しなければなりません。申告書のひな形や記載方法については、国税庁のホームページにて詳しく解説されています。とはいえ、これを個人で作成するのはかなり難しいと思います。
一般的には、相続税の申告は税理士に依頼することが多いでしょう。当事務所でも、相続税の申告が必要な方には、相続税に詳しい税理士を紹介しています。
不動産関係書類
相続した財産に不動産があれば、不動産関係書類を添付しなければなりません。
以下は代表例となっていますので、必要に応じて取得しましょう。
- 固定資産税の納付書、もしくは固定資産評価証明書
- 登記事項証明書、公図、地積測量図
固定資産税の納付書、固定資産評価証明書、倍率表、路線価図
不動産の価値を算定するために、固定資産税の納付書、もしくは固定資産評価証明書を取得し、添付しましょう、固定資産税の納付書については、被相続人宛に毎年送られているはずなので、遺品整理の際などに意識して探してみましょう。もし、見つからなかった場合は、市区町村役場、東京都の都税事務所にて固定資産評価証明書を取得しましょう。
土地の評価を固定資産評価を基に相続税評価をする地域の場合は倍率表、路線価で評価する地域の場合は路線価図を取得して、土地の相続税評価を計算します。
登記事項証明書、公図、地積測量図
登記事項証明書、公図、地積測量図は、いずれも法務局にて取得可能な書類です。登記事項証明書の取得手数料は500円、公図や地積測量図は450円となっています。
預貯金関係書類
相続した財産に預貯金があれば、以下のような預貯金関係書類を添付します。
以下は代表例となっていますので、必要に応じて取得しましょう。
- 各銀行等金融機関の残高証明書、入出金明細
- 預金通帳の写し
各銀行等金融機関で取得しよう
これらは、いずれも各銀行等金融機関にて入手可能です。預金通帳の写しについては、記帳できる部分まで提出し、不足部分は残高証明書や入出金明細で補いましょう。
残高証明書や入出金明細は、手数料がかかる場合もある点に注意です。
その他の財産関係書類
上記以外に相続した財産があれば、以下のような関係書類を添付します。
以下は代表例となっていますので、必要に応じて取得しましょう。
- 株式の配当金支払い通知書
- 非上場株式の関連書類
- 生命保険支払い通知書
- 保険証書
- 解約返戻金などがわかる書類
まとめ
相続手続きには、どの手続きも共通で必要な書類と、手続きによって必要な書類があります。
まずは、優先して共通で必要な書類から集めていくのが効率的と言えます。そして、相続登記申請の際には法定相続情報証明制度をも取得し、法定相続情報一覧図の写しを交付してもらいましょう。各銀行等金融機関での手続きで、戸籍謄本の原本を束で提出する必要がなくなり、非常に効率的でおすすめです。こちらの手続きは、相続登記手続きがない方でも利用できるため、戸籍謄本の束を管理するのが面倒な方はぜひ利用しましょう。
相続手続きの必要書類まとめの一覧表
手続き | 死亡者の | 受取人・相続人の | |||||||
除住 民票 |
除籍 | 改製原戸籍・ 原戸籍 |
診断書 | 手帳・ 証書 |
印鑑 | 印鑑証明 | 住民票 | 戸籍 | |
会社役員の退任 | ● | ● | ● | ||||||
会員 | ● | ||||||||
クレジットカード | ● | ||||||||
遺族年金 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||
寡婦年金 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||
死亡一時金 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||
遺族厚生年金 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||
遺族共済年金 | ● | ● | ● | ● | ● | ||||
葬祭費 | ● | ||||||||
埋葬費 | ● | ||||||||
保険金(生保) | ● | ● | ● | ● | ● | ||||
保険金(簡保) | ● | ● | |||||||
不動産名義変更 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||
預貯金名義変更・解約 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |
株式名義変更 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | |
自動車名義変更 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ||
光熱費名義変更 | ● | ● | |||||||
電話名義変更 | ● | ● | ● | ● | |||||
借金名義変更 | ● | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
あまりに必要書類が多岐に及ぶため、無事に手続きを終えられるか不安になってしまった方も多いのではないでしょうか?もし、相続手続きや、手続きに必要な書類の取得について不安という方は、専門家に依頼すると良いでしょう。専門家であれば、必要書類の大部分を代理で取得できますし、必要な書類も代理で作成してくれます。また、手続きをミスなく確実に終えられる点も、大きなメリットと言えるでしょう。
司法書士事務所神戸リーガルパートナーズはこれまでも多数の相続案件を扱ってきました。どうぞお気軽にご相談ください。
相談のご予約、お問い合わせ