相続放棄という言葉ほど一般の方の使う意味と法律上の意味が大きく違う言葉はないかもしれません。
そして、その意味を取り違えたまま専門家に相談することなく相続放棄をして、大失敗につながってしまうことがあります。
この記事で紹介するのは、実際に意外と多い失敗です。他の司法書士や弁護士からも同様の失敗例を聞いたことがあります。しかも、一度やってしまうと取り返しがつかない失敗です。
この記事では、取り返しがつかない相続放棄の失敗の一例、なぜそれが大失敗なのか、では失敗しないためにどうすればいいのかをここで説明します。
相続放棄の失敗事例
父親が亡くなり、相続人は妻(母親)と子ども2人でした。
相続人全員で話し合いをした結果、話し合いはすぐにまとまり子どもたちは全て放棄して母親に遺産は全部あげようということになりました。
子どもの一人がインターネットで調べたところでは、相続放棄は家庭裁判所でしなければ効力がないことがわかりました。また、裁判所のサイトで相続放棄の書類を見たところ、簡単そうで自分たちでできそうです。
そこで、子どもたち2人は、自分たちで相続放棄の手続きを家庭裁判所でして相続放棄は受理されました。
相続放棄が家庭裁判所で受理されてから、母親と子どもが自宅の相続登記のために司法書士事務所を訪れ、戸籍謄本などど共に相続放棄の受理証明書を司法書士に見せて、これまでの経過を説明しました。
すると司法書士は、父親の両親や兄弟関係を質問し、今のままでは相続登記できないと言いました。
母親1人に相続させるために子どもたちが2人とも相続放棄したのに、相続手続きができないと言われ、全員ビックリです。司法書士から、相続放棄するとどうなるか説明を受け、子どもたちが相続放棄をしたこが大失敗だったとわかりました。
相続放棄が失敗の理由
この相続放棄が失敗である理由は、子どもたち全員が相続放棄したことにより、妻と父親の兄弟が相続人となってしまったことでした(父親の親はすでに亡くなっています)。
こうなると、父親の兄弟が、母との遺産分割の話し合いにすんなりと応じて、母が全て相続することで納得してくれればいいですが、父の兄弟が自分たちの相続分を要求してきたら、父の相続財産から不動産の持分や金銭を渡さなければならなくなるかもしれません。
そのうえ、母親にとっては、父の兄弟と相続の話し合いをするのは精神的な負担も大きいでしょう。
母親のために相続放棄の手続きをとったにもかかわらず、その意図とは全く異なる結果になってしまいました。
なぜ相続放棄を大失敗したのか
相続放棄でこのような大失敗をした原因の一つは、法律上の相続放棄と一般の方がいう相続放棄の意味が大きく異ることです。そして、意味を取り違えたまま相続放棄をすると、全く意図していなかった結果になってしまいます。
法律上の相続放棄の意味
法律上の相続放棄は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす制度です。初めから相続人ではなかったことになるので、結果として、相続に関してプラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないことになります。
初めから相続人としては存在していないのと同じなので、今回の例のように子ども全員が相続放棄をすると、最初から子どもがいなかったのと同じことになり、次の順位の相続人が登場してきます。
これが今回の失敗の原因です。
一般の方の相続放棄の意味
今回の事例で相続人の子どもたちが相続放棄と言ったのは、法律的には「相続分の放棄」または「子どもの相続分を0にする遺産分割」です。
どちらの場合も、お母さんが100%相続することに変わりありません。法律上の相続放棄との違いは、子どもたちは相続人のままであること、そして負債があったときは子どもたちは負債は相続することです。子どもたちが相続人のままであるので、相続放棄のときのように次の順位の人が相続人になることはありません。
実務的には、このような場合、お母さんが全てを相続する遺産分割協議書を作成して、相続登記やその他の相続手続きをすることがほとんどです。
失敗した相続放棄をなかったことにできる?
さて、失敗した相続放棄をなかったことにできるでしょうか?
相続放棄は撤回はできませんし、原則として取消しもできません。
ただし、一定の場合には家庭裁判所で相続放棄を取消すことができるとされています。相続放棄を取消すことができれば、相続放棄は最初からなかったことになります。しかし、相続放棄の取消しができるのは、詐欺や脅迫があった場合や法定代理人の同意を得ないで相続放棄をした場合など一定の場合に限られます。
今回の事例のように、勘違いで相続放棄をした場合は、家庭裁判所で相続放棄の取消しが認められる可能性は低いでしょう。
相続放棄で失敗しないためには
相続放棄に限らず法律的な手続きは、簡単そうに見える手続きでも素人判断で進めずに、専門家に相談してから手続きすることをおすすめします。
今回紹介した事例以外にも相続放棄の失敗例はあります。司法書士事務所神戸リーガルパートナーズのサイト内のまとめ記事もお読みください。
相続放棄の失敗例ー取り返しがつかないことになる前に相談を
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